あるときは美しき刺客、あるときは理性を失った殺人鬼…。アイドルグループ、AKB48卒業から1年半。これほど数多くのドラマ、映画、舞台などで活躍する姿を誰が予想しただろうか。
「もともと、他人を演じるワクワク感はありましたが、これだけ多くの作品に出演できるとは想像もしていませんでした」
3月15日放送のNHK・BSプレミアムの地域ドラマ「アオゾラカット」(午後10時)では、コテコテの関西人に変身する。舞台は大阪・西成の美容院。母親の訃報を聞き、急きょパリから帰国した美容師の息子である主人公の川村翔太(林遣都)が父、吾郎(吉田鋼太郎)に反発、葛藤を経て和解する中で、生まれ育った街の魅力を再発見するヒューマンコメディー。キャラの濃い地元の人々や父との確執に戸惑いながら奮闘する翔太を手助けする美容院の店員、仲井遥を演じる。
「役柄もすごくすてきで、お話も台本もらったときにすごく感動した。親子をつなぐ重要な役で絶妙なぐらいに中間に入れるよう、気をつけて演じました。林さんに髪をカットしてもらうシーンにも注目してほしい」
ディープな大阪の下町ドラマだけに関西弁でのセリフの応酬も見どころだが、初挑戦の関西弁には四苦八苦。滋賀出身の林、小学校の6年間を大阪で過ごした吉田から思わぬいたずらも。
「『これ』『この』とか、微妙な標準語との違いが難しく、とくに『この人』が言えませんでした。撮影中は、アドリブがいつ飛んでくるかも心配でした。アドリブだと返しがエセ関西弁になっちゃうので。吉田さんだけじゃなく、林さんもやってきましたけどね…」
そんなイチビリにも「難しさより、楽しさが大きい」と充実の日々を送るが、子供のころから女優志望というわけではなかった。AKBも友達に誘われ、オーディションに参加。おバカキャラでのブレークも「自分から目立とうという性格ではないので、まわりの方にキャラクターを作っていただいた」と振り返る。ただ、転機は突然訪れた。
「AKB時代に、お芝居をやらせていただいたら、すごく楽しくて、お芝居がやりたいと。子供のころから悩んだらすぐに決断を出すタイプだったので、誰にも相談せず卒業を決めました」
卒業後、初主演舞台「AZUMI~幕末編」では激しいアクションを堂々とこなし評価が急上昇。NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、映画「デスノート」など話題作へ相次ぎ出演した。
「ずっと出たいと思っていた朝ドラが決まったときは、すごくうれしかった。今まで、同世代の役者さんとお芝居することが多かったけど、いろんな年代の方とお芝居ができ、学ぶこともたくさんあって、すごくいい経験をさせていただいた」
いまも出演依頼はひっきりなし。セリフ覚えもひと苦労だが「わずか2時間でミュージックビデオの振り付けを覚えるのが日常でしたので、覚えることは得意」とAKB時代に養った即応力が生きている。一方、出演作品は「見返さないし、できれば見たくない」と意外なポリシーも明かす。
「普通は作品を見て、反省して、次に生かそうというのがあると思うんですけど…恥ずかしい。あと、もう撮っちゃったものは、反省したところで、もう後には戻れないので」
実は、この切り替え力こそ、アイドルから女優へと転身する上で、大きな武器になっている。
「仕事は撮影が終わったら終わり。家に帰っても役を引きずることはありません。性格だと思います。先日も撮影現場で、監督さんに『川栄さんって、どこでスイッチが入ったのかわからない方ですね』といわれました。ワンクールで何作品もできない方も多いと聞きますが、私の場合は何役掛け持ちしても苦にならないんです」
今後は「女優一本」ときっぱり。理想像もある。
「ガチッとお芝居をするというよりは、見ていてすごく自然だなと思えるお芝居を意識しています。好きな女優さんは満島ひかりさんですが、何でも演じられる人、変に色がついていないというか、この人といえば『これ』というものがない人、女優としていろんな色に染まることができるのが理想です」
自然体でどんな作品にもなじむ“色なき女優”を目指し、一瞬一瞬を大切に生きている。 (ペン・田中一毅 カメラ・宮崎瑞穂)
■かわえい・りな 女優。1995年2月12日、神奈川県生まれ。22歳。2010年、AKB48第11期研究生オーディションに合格。15年8月にAKB48を卒業。同年9月に「AZUMI~幕末編」で初舞台初主演。16年、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、ドラマ「早子先生、結婚するって本当ですか?」、主演舞台「あずみ~戦国編」、映画「デスノート Light up the NEW world」など話題作に出演した。
アイドル時代はバラエティー番組などで、おバカキャラとして活躍していたが、女優路線へキャラ変更中。「まだイメージがだいぶ残っていると思います。あと3年後ぐらいに、なくなっていればいいな」と笑った。